サスティナビリティ考

地球環境、持続可能、政治・経済・社会問題などについて書いています。 メール kougousei02@yahoo.co.jp

「戦前」の正体--愛国と神話の日本近現代史⑤ 犠牲者・被害者の視点?

「戦前」の正体--愛国と神話の日本近現代史(辻田真佐憲著)の続きです。
最後の章「新しい国民的物語のために」について、少し批判的に考察してみたい。

 著者は、国家神道をめぐる議論は、「上からの統制」に注目が集まりすぎるという。ナショナリズムが高揚すると、民衆が自発的に軍歌をつくり歌を歌うようになったと「下からの参加」も批判する。その視点は大事と思う。
 P284に、「プロパガンダ」をしたい当局と、「時局で儲けたい」企業と、「戦争の熱狂を楽しみたい」消費者という3者の利益共同体が軍歌という空前の国民的エンタメを生みだした書いている。それはその通り。
 だが肝心なことが抜けている。
 ①戦争遂行当局の中に、多くはないが抵抗しようとした人たちもいた。
 ②時局で儲ける事に、抗いつづけた人たちがいる。
 ③熱狂的な消費者もいたが、そうでない人も多くいて、戦争に反対し、治安維持法で投獄・獄死した人も多くいた。
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 なので、それぞれに反対の思いを持ち、抵抗心があり、実際に命をかけて抵抗した人たちもいた。
 それは少数でも、多数に勝る価値を持つ。
 両論併記であてはならないと思う。そんな観点が弱いと思う。
 最近の多くの著作に共通する傾向だと思うが、たたかいから遠い立場にいるからだろうか。
 迫害を受け、世間の非難を受けた人たちの名誉は、今も回復されていない事も多い。
 それは今日につづき、現在においても影響を及ぼしている。たたかいは継続しているので。
(写真上:戦前に弾圧を受けながら労働や人権、平和を唱えた無産者新聞/ 下:東京モスリン亀戸工場の労働者たち。2列目右端が飯島喜美=1927年)
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 更に、著者は戦前の物語ついて65点だとする。その視点にも、大事なものが欠けている。
 「日本の神々が世界をつくった云々‥は荒唐無稽」とするが、なぜこのような物語が整備されたかを考えるべきと説く。
 欧米列強の侵略に対抗して、急速な近代化・国民化を成し遂げるためとし、その試みは成功し、日清戦争日露戦争に勝ち抜き、欧米列強に伍するようになった、と肯定的にも描く。
 だがそれは日本の近代化が、欧米と同じく侵略・植民地化を不可欠とする考えに等しい。
 日清戦争は欧米の真似をして侵略し、台湾を分捕ったわけだし、日露戦争は、朝鮮と中国東北部の権益をめぐって大陸で戦争をし、戦場の住民に重大な破壊と殺戮ももたらした。
 日中戦争、対米などの戦争も、八紘一宇の継続の結果ではではないか。
 それらの国々の住民の被害を無視し、意識しないのは、加害側の立場を肯定することにならないか?。
 次の点も短絡的だ。
 「日本悪玉論に立つ人間に限って、共産主義の失敗から目をそらす」とは、どういう事だろうか?。
 共産主義とは、いろいろ名乗りがあるが、どの共産主義を指しているのか?
 侵略戦争に反対し、天皇制に反対し、人権や民主主義を主張した戦前の日本の共産主義者もいる。戦後においても、少なくとも平和主義や人権、憲法を守る立場で奮闘してきている共産主義者もいる。
 ソ連、中国の共産主義を指すならその国名を記すのが望ましい。
 私は日本共産党員なのだが、マルクスの考えに従えば、ソ連は中国は共産主義ではないと断言する。あなたの考えには賛同する面が多いが、分別もなく、同一視し、レッテル張りする立場はとらない。
 記述は日本のことなので、日本共産党のことを指すなら、具体的にその内容を指摘した方がいい。私も指摘が事実と判断し、納得した場合は考えを改めるつもりだ。

 著者に対し、批判意見は、左右からくるだろう。
 どちらに対しても丁寧な対応をお願いしたい。
 最後に買って読んでみて、学びになって良かったです。