サスティナビリティ考

地球環境、持続可能、政治・経済・社会問題などについて書いています。 メール kougousei02@yahoo.co.jp

カール・マルクス-佐々木隆治⑦ ジェンダー論

 佐々木隆治著(ちくま新書)の「カール・マルクス」の続きです。
 マルクスは「ジェンダー」論が弱いとの批判があり、私もマルクスは古い時代の人であり、そこまでは求められないだろうと思っていた。
 しかし佐々木によれば、晩期マルクスは、研究した共同体の著作に男女関係についての叙述があり注目したという。
 ジェンダーについてマルクスの考えは、著作ではなく、
①「抜粋ノート」にのみ残されていて、非資本主義社会のジェンダー問題を研究している。
②「家族、私的所有、国家の起源」-マルクスの遺稿(モーガン著「古代社会」研究)を基にエンゲルスが書いた本は、マルクスの抜粋ノートの論調と明らかに違いがある。

 エンゲルスは「女性の世界史的敗北」の原因を私的所有の成立に求めている--(生産力が上がり、富む者と富まざる者との格差が生まれ、私的所有が発生し、女性優位の母権制社会が崩れ、男性の所有物を保持するための家父長制社会が生まれたとする)
 マルクスの抜粋ノートでは、私的所有が成立する以前の氏族社会が、それ以降の社会に比べて相対的にジェンダー平等になっていることを認めつつ、氏族社会でもジェンダー差別があった事も注目している。
 モーガンが研究したイロコイ族は女性たちの力が大きくはあったものの、「一夫多妻制」があり、「厳しい罰則で脅かして」なども抜粋ノートに書いているそうだ。
 つまりマルクスは、私的所有がジェンダー関係に与える影響を重視する一方、エンゲルスとは異なり、私的所有に還元できる問題ではない事、私的所有のもとでも女性の地位向上がありうると認識していた、とする。
 佐々木氏は、資本論を書く中でマルクスは、物象の力に対抗する拠点として物質代謝の論理を見出し、物象の抽象的な論理にたいして物質代謝の具体的な把握のために農学や地質学などの研究を行い、人間と自然との物質代謝を持続可能な形で行う社会形態を探るために、共同体研究を行った。
 共同体における人間と自然との物質代謝のあり方を探究することは、世代を再生産するための人間と人間の関係、ジェンダー関係を探究し、むしろジェンダー固有の関係が資本主義的生産様式に対する抵抗となりうることを見出した、と解説する。私は、抽象的でわかりにくい物象論のところを、もっと学ぶ必要がある。