サスティナビリティ考

地球環境、持続可能、政治・経済・社会問題などについて書いています。 メール kougousei02@yahoo.co.jp

カール・マルクス-佐々木隆治⑧ 物質代謝の総体・地球

 佐々木隆治著(ちくま新書)の「カール・マルクス」の続き、最後です。
 著者は晩年まで、マルクスが知ろうとし、研究するために読んだ本の大事な部分の抜粋ノートの概要表を紹介している。
 これら抜粋ノートなどは、誰も読むことができなかったが、新MEGA版として、現在も刊行中だ。日本の学者も担当し、佐々木氏(表の18、19巻)や斎藤氏らも編集に携わった。
 特にマルクスが亡くなるまでの10年間の抜粋ノートは生涯の1/3を占めている。
 晩年にマルクスは、何を考え、何を知ろうとしたのか?この抜粋ノートを読まなければ全体は見えてこない。
 資本論2巻3巻の発刊が急がれていたが、その仕上げよりも優先した研究‥‥。
 それは一般に想像できる経済学ではなく、人間と自然との関係-「物質代謝」(持続可能)の関わりから農業や化学や共同体に関するものだった。それが、構想した資本論の完成に必要だったのかもしれない。

 この本が出された2016年に、私が読む事ができたならと、悔やまずにはおれない。
 気候問題を学び、地球の限界、人類の物質生産主義に疑問を持っていたからだ。その一つに回答がマルクスの中にあったなんて。
 19世紀にも農地の疲弊など、マルクスの時代も資本主義的生産の結果として環境問題がとりだたされていたようだ。
 それをマルクスは「物質代謝の攪乱、亀裂」として、資本主義の本質として捉えていた。
 マルクスは労働者階級の同盟者を3つの領域に見だした、と佐々木氏。
①社会的マイノリティの人たち
 マルクスは、「黒人労働が焼き印を押されているところでは、白人の労働も解放されない」とリンカーン奴隷解放を熱烈に支持した。
 ジェンダーについても、差別を克服することなしに労働運動を強化することはできない。
前近代的共同体
 前近代的共同体の中に資本の抵抗の拠点をみいだした。
 マルクスは、亡くなる1年前1882年の「共産党宣言」のロシア語2版に「ロシア革命が西ヨーロッパのプロレタリア革命の合図となり、その結果、両者がたがいにおぎないあうならば、現在のロシアの土地の共同所有は共産主義的発展の出発点になりうる」と書いていて、佐々木氏はこのテーゼの妥当範囲はかなり広いと考えていた可能性が高いとしている。
③人間と自然との物質代謝物質代謝の総体、すなわち地球上の生命活動の全体であった。
 地球上の生命的営みの総体と資本主義的生産関係が、さまざまな領域や局面で衝突ぜざるを得ないとみていて、それが資本主義への強力な抵抗の拠点となると考えていた、とする。
 19世紀のマルクスについて、ここまで考えていたと書くと、少し行き過ぎの気もする。だが、現実の進行は見てのとおりだ。現在の地球と人類を見るマルクス主義者なら、そのように発展させることが大事だと考える。
 あくなき資本蓄積のため、大量生産と廃棄が行われ、気温上昇は止まらず、海面上昇も止まらないところにきている。人類が、資本とのたたかいに勝たなければ、近いうちにティッピングポイントを超え、地球は資本を打ち負かすため、生態系と人類を破局においやるだろう。