サスティナビリティ考

地球環境、持続可能、政治・経済・社会問題などについて書いています。 メール kougousei02@yahoo.co.jp

カール・マルクス-佐々木隆治⑤ ザスーリチへの手紙

 佐々木隆治著(ちくま新書)の「カール・マルクス」の続きです。
 ザスーリチへのマルクスの返事について佐々木さんの解説です。
 ロシア内の運動に論争があって、ザスーリチは手紙で、「わが農村共同体のありうべき運命についての, また世界のすべての国が資本主義的生産のすべての段階を通過することが歴史的必然であるという理論についての, あなたの考えを述べて(手紙の一部)」欲しいとザスーリチは問うた。
近代主義的な歴史観を明確に否定した。(昨日書いた)

②共同体の必然的な解体を否定する根拠として、前近代的共同体の生命力をあげた。
 前近代的共同体も様々あり、マルクスはロシアのタイプ「農耕共同体」を高く評価した。
*「血のきずなによって束縛されていない自由な人間たちの最初の社会集団」
土地は共有されているが「定期的に共同体の成員のあいだに分割され、したがって、各人は、自分にあてがわれた畑を自分自身の計算で用益し、その果実を個別的にわがものとして取得する」--の2重性が「この共同体に強靭な生命をあたえる」としている。
 農芸化学者フラースは、セム人、ギリシャ人、ローマ人などの社会が耕作による気候変動、土地の荒廃で衰退したのは、土地の私的所有が基本形態で、耕作に対する共同的規制が弱かったと明らかにし、それをマルクスは知っていた。
 原始的共同体では私的所有が存在せず、強固な規制があり、それが「人間と自然の物質代謝」の攪乱を防ぎ、より大きな持続可能性をもたらした。
 ロシアの農耕共同体は、土地の共同所有では原始共同体の生命力を継承し、他方で分割耕地とその成果の私的取得によって個人性を発展させ、社会の生産力を高め強靭な生命をを持つをマルクスは評価し、農耕共同体を「ロシアにおける社会再生の拠点」として位置付けた
③農耕共同体を「ロシアにおける社会再生の拠点」と位置付けた。
 ロシアの農耕共同体は、高度な生産力を実現していた西ヨーロッパの資本主義社会と同時に存在していた。西ヨーロッパが共同体を破壊し、資本主義を経由することによってしか手に入れることができなかった生産力を、ロシアは農耕共同体を破壊することなく、獲得することができる。
 分割耕地でありながら、なお集団的な要素が優勢であり、実際に「牧場の刈草干しや干拓などの共同事業」においても共同労働を行っていて、農学的に合理的だとされる集団耕作、機械を利用する広大な規模の耕作にも適合的であった。
 マルクスはロシアの共同体を苦しめている国家による搾取を除去し、正常な発展の条件を確保すればロシアの共同体が共産主義へと発展する事は可能だと考えた。

 これまでのマルクスのザスーリチへの手紙の議論は、革命運動論の観点だったと思うが、持続可能性も考慮したものであったとしたら驚くべきことだ。
マルクスが「物質代謝の亀裂」が惑星規模で進むとまでは考えなかっただろうが、これは人新世の時代にマルクスの思想を受け継ぐものとしては、しっかりとらえ発展させるべきものだと強く思う。
 その点、学術としては大いに議論すべきと思うが、マルクスの哲学と思想は受け継ぎ発展させるべきだろう。

 マルクスさん。生き返って、ホントはどうなのか教えてくれませんか