サスティナビリティ考

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アナザー・マルクス④ 序文

 著者の序文のつづきです。
f:id:adayasu:20220220194201j:plain:right「長い間、マルクス主義者の多くはマルクスの初期の仕事、特に『1844年の経済学・哲学草稿』と『ドイツ・イデオロギー』にもっぱら焦点を当ててきた。そして『共産党宣言』は最も広く読まれ、引用されてきたテキストであり続けてきた。しかし、これらの論考に含まれていた多くのアイディアは、その後の研究で展開されていくことになる。
 そして、ブルジョワ社会に対する批判についての最も貴重な考察を、マルクスが到達した結論が最も十全に示されるのは、なにを措いても『資本論』とその夥しい数の準備草稿、そして彼の晩年の研究においてである。それらの論考を、マルクス死後の変化に照らして再検討するならば、資本主義に代わる社会経済的なオルタナティブを考えるにあたって、豊かな土壌が得られるだろう。
 マルクスの最も成熟した時期の草稿は、彼が死に向かいつつも政治経済学の研究を続けていたことだけでなく、新たな領域を取り込もうと興味関心の幅を広げていたことを示している。そうしたテーマには、自然科学、前資本主義的社会における共同所有権の形態、農奴制廃止後のロシアで進む社会変容、合衆国の資本主義の発展、人類学の進歩などが挙げられる。
 同時に、マルクスは国際政治の主要事件を丹念に追いかけ、ポーランド独立、アメリ南北戦争時の奴隷制の廃止、およびアイルランドの自由を求める戦いに、はっきりと賛成の立場を取っていた。ヨーロッパの植民地主義にも、断固として反対していた。こうした彼の態度は、マルクスはヨーロッパ中心主義で、かつ経済主義的な思想家であり、生産の領域と資本―賃労働間の階級闘争にしか関心がないという、一般的なイメージと実に異なっていよう。
 マルクスの伝記の多くは、彼の人生の主要事件を、彼の理論的成果とは独立に取り扱ってる。しかも、最近のものを含めてほとんど全ての伝記において、初期の業績にしか関心が払われていない。長い間、マルクスの最晩年の研究を辿るのは困難であり、その時期の理論的進展への理解は阻まれてきた。マルクスの仕事に重大な影響を及ぼした、その頃の人生の浮き沈みは、学術的な研究においてはほとんど看過されてきた。
 事実、多くの論者たちは、青年マルクスと成熟したマルクスの違いを議論することに長い時間を費やしてきた。こうした論争が生じたのは、資本論」出版以後の膨大な量の仕事や、そこからマルクスが引き出した革新的なアイディアに、しかるべき注意が払われてこなかったせいである。その他の研究の多くも、哲学者マルクス・経済学者マルクス政治活動家マルクスの3者を切り離すという、誤った理解に基づいていた。
 本書の成果は、未だ部分的で不完全なものである。マルクスの総合性は人類知の非常に幅広い領域にわたっており、どんなに卓越した研究者でも、その頂上を推し量るのは容易ではない。加えて、モノグラフとして普通に読めるものに仕上げなければならないため、マルクスの業績の全てを分析することなどできないし、本当ならもっと多くのスペースを割かなければならないテーマを、1ページに凝縮しなければならないことも多々あった。こうした限界を認識しつつも、著者は研究成果をさらなる研究の出発点として、世に問いたいと考えている。
 1957年、20世紀のマルクス研究の大家の一人であるマクシミリアン・リュベルは、マルクスの「記念碑的伝記」はまだ書かれていないと述べた。それから60年以上が経ったが、この仕事は未だ達成されていない。新MEGAの最近の巻によって、マルクスは語られつくした人物だという主張は誤りであるということが分かった。しかし、未出版だったテキストが出現する度に「知られざるマルクス」を喧伝する人々のように、マルクスについて知られてきた事柄が、近年の成果によって完全に覆されてしまうというのもまた、誤りであろう。
 マルクスから学ばなければならないことは、未だ多く残されている。マルクスを学ぶにあたり、既によく知られた古典だけでなく、未完の草稿に含まれる問題点や疑問点を差検討することができるのは、今を生きる我々の特権である。          
                            2018年8月 マルチェロ・ムスト
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