サスティナビリティ考

地球環境、持続可能、政治・経済・社会問題などについて書いています。 メール kougousei02@yahoo.co.jp

アナザー・マルクス③ 序文

 アナザー・マルクスのつづきです。
 著者のマルチェロ・ムストが、日本の読者に向けて書いている序文がとてもいいので、何回に分けて引用して紹介する。これを読んで買った。
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 「f:id:adayasu:20220220180757j:plain:rightここ10年にわたって、あちこちのメディアに、先見の妙がある思想家として再び脚光を浴びている歴史上の偉人がいる。
 カール・マスクスである。彼の思想の妥当性は、現在においても常々確認されるところとなっている。進歩主義的な論者たちの多くが、資本主義のオルタナティブを構築する上で、その思想をめぐって大学の講義や国際会議が再び催されるようになっている。
 マルクスの著作の復刻版や新版が、書店にまた並ぶようになった。このように、20年の長い休止期間を経て、マルクスの研究は再び盛り上がりをみせつつあるのである。まさに「マルクスリバイバル」と言えよう。マルクス生誕200周年にあたる2018年に、この風潮はますます強まってきている。
 マルクスの業績を再検討するにあたって決定的だったのは、『新MEGA』の出版であった。これはマルクスエンゲルスの仕事の完全版を期す歴史的な事業であり、1998年に再開された。再開後、26巻が出版されており、残りは準備中である。(そのほか、1975年から19992年までの間に40巻が出版されている)。新MEGAには、次の4つが含まれている。(1)マルクスの仕事のいくつかの新版(『ドイツ・イデオロギー』など)、(2)『資本論』の準備にあたって書かれた全ての草稿、(3)マルクスエンゲルスが交わした書簡の全て、そして(4)マルクスの読書の要約やそこから生まれた考えが記された、およそ200冊のノート。これら全ての資料は、彼の批判的理論の作業場をなしている。それらを見てみると、マルクスの思想がいかに複雑な過程を経て形成されてきたのか、またそれはどんな材料に基づいているかがわかる
 こうした貴重な資料は、その多くがドイツ語でしか読めず、狭い学会内でしか使われてこなかったが、これまでと異なるマルクス像を示してくれる。これまでの凝り固まったマルクスのイメージは、その表向きの支持者にも、その批判者にも、長らく共有されてきたものである。
 新MEGAが手に入ったことによって、マルクスの風貌は、どんな経済学・哲学の思想家よりも近年大きく変化したと言えるソビエト連邦の崩壊に続く政治状況の変化も、マルクス・レーニン主義の終焉によって、マルクスは、彼自身の社会認識とかけ離れた、イデオロギーの世界の足枷を外されたのである。
 また、数多くの資本主義社会の矛盾を考察するにあたって、資本と労働との間の対立以外にも幅広い問題群を取り扱っていたことが分かってきた。彼は、ヨーロッパの外側の社会や、世界の周辺と言われてきた地域における植民地主義の破壊的な側面について、並々ならぬ関心を抱いていた
 またエコロジー的な問題についても、その重要性を認識していいたことが明らかになっている。これは、マスクスの共産制社会への道筋は、単なる生産力の発展過程と同じものだと非難してきた人々に対する反論になる。
 こうした新たな研究成果によって、これまでのマルクス研究がしばしば過小評価したり見落とされたりしてきた様々な論点を、マルクス自身が掘り下げ抜いていたことが分かってきたのである。少し例を挙げておこう。
 国家がコントロールする形でない、集団的な所有のあり方経済的・政治的領域での個人の自由の重要性。社会的な解放に向けての、技術のポテンシャル。そして、ナショナリズムの様々な形態に対する批判。これら全て、私たちの時代においても根本的な社会問題であり続けている。
 これらの新たな研究の進展によって、マルクスの業績は注目され続けるだろうし、それをめぐる解説も次々と出てくるだろう。そのようにしてみる中で、この本でカバーされている時期(経済学批判の最初の草稿(『要綱』)が書き始められた1857年から1883年まで)には、今日の読者にとっても興味をそそる問題や、豊富な論考が提示されていることが明らかになってきたのである。」(つづく)