サスティナビリティ考

地球環境、持続可能、政治・経済・社会問題などについて書いています。 メール kougousei02@yahoo.co.jp

現代戦略論-⑤ 勝利の方程式→愚かの方程式

  著者は、大国間競争の時代というが、米国側は、自国の国土を戦場とする戦争は想定していない。
 他国の紛争に積極関与しながらも、自国と核戦争に及ぶことは、絶対的に国民が避ける。
 だから米国は、本国を戦場とする戦争はしたことがない。
 したがって国民は、戦場がいかなるものか?知らない。
 他国への武力介入・戦争を正義のためと思い込まされている。

 著者は、日本の統合海洋縦深防衛戦略を説く。
 台湾戦争になった場合、
 中国側のセオリー・オブ・ビクトリー(勝利の方程式)は、
 第一に、優勢なミサイル攻撃で米軍や自衛隊の航空機や滑走路を使用不能にする。米空母は、空母キラーミサイルが怖いので退避していて艦載機の航空戦力を温存する。その結果、
 第二に、航空優勢を維持し、
 第三に海上優勢を確保し、
 第四に上陸作戦を行う、と描く。

 そこで日本のセオリー・オブ・ビクトリー(勝利の方程式)は、海洋戦力を強め、中国艦船が台湾海峡を渡るのを阻止する。
 日本側の大戦略は「現状維持」なので、中国を打ち負かす必要はなく、中国の艦船に攻撃を集中し、長期戦に持ち込めばいいとする。つまり戦争が膠着状態に陥れば、中国側は不利になるとの判断。
 この場合エスカレーションは考慮されていない。だからなのか?進められている健軍自衛隊・西部方面隊など、自衛隊基地の地下化・堅固化には触れられていない。
 ここで求められてくのるのが奄美から沖縄、先島諸島に至る地対艦、地対空ミサイルの配備だ。さらに継戦能力を確保する弾薬庫や兵站、レーダーなどの建設、民間空港、港湾の利用だ。これが現実に進められている。
 となると、これらの島々には相手国のミサイルが降ってくることになり、住民の犠牲は避けられない。そのための住民避難は、シェルター建設も含め進められようとしているが、この点への指摘はない。
 自衛隊の敵基地攻撃力についても、航空相殺攻撃能力の強化として書かれている。
 中国の航空優勢を弱めるために、「日米側も中国の航空基地を撃破することも考えるべきだろう」とする。
 ほかにも宇宙、電子・磁波戦、サイバー戦にも言及する。最後には、認知戦、広報戦略として、イラク戦争で米軍が記者を同行させたエンベッド方式を導入し、有利な報道をさせようとするように書いている。
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 戦略論として、いろいろ学ぶ点もあったが、最後に3点ほど書いておきたい。
  やはり著者らは、
①米軍サイドの情報・考え方で、米国が起こしたイラク侵略などの数々の武力介入、国連憲章違反などは記述していない。
②住民の犠牲については、記述がない。守ろうとしているのは、人でなく国家だ。自衛隊員の損耗についても。
③ハイテク兵器、宇宙、サイバー、戦略→→ 相手国も必死になってやっており、軍拡競争の悪循環だ。際限がない。勝者はいない。人類的にみると愚かも愚か。

 ハワイほか、世界広がる森林火災、中国などの大洪水など、実際に人々を襲っている危機、気候危機への認識がない。この地球規模の危機への対処こそ、各国の話し合いと協力が急ぎ求められている。