蒲島知事のTPPへの態度は、いまひとつ分かりにくいですね。知事の記者会見とTPP反対集会の発言をご覧ください。真意がどこにあるかは、だいたい見えてきます。
蒲島知事の定例記者会見(2011.10.23)
質疑応答【TPP(環太平洋経済連携協定)について】
Q
知事、引き続き昨日の話なんですけれども、TPPについてですね、知事の姿勢がいまいち分かりにくいところがありまして、基本的に国民的合意を取って欲しいと、慎重な議論をして欲しいという意見だと思うんですけれども、一方で、昨日の知事の発言だとですね、「携帯電話がなくても生きていけるが、食料がなくなると1日も生きていけないので、その重要性を認識していただきたい」というようなことで、比較的反対とも取れるような発言をされていながらですね、そこまで、実際踏み込んだことを・・。
蒲島知事>
熊本県は、農業と工業、両方抱えていますので、当然プラスの面とマイナス面は両方あると思います。ただ、私がこの問題について考えるのは、食料はとても大事だということであります。特に私は食料難を経験しておりますので、携帯電話が1週間ぐらいなくても生きていけますけれども、食料がなければ本当にもう飢え死にしますから、そういう食料の重要性が一つ。
それから今、農業は非常に曲がり角に立っています。担い手の問題、自給率の問題、そういう形で将来の農業のビジョン、これを示すことによって、私はTPPと両立出来るんじゃないかなと思っています。ただそれが示される前にですね、このTPPだけ動いて、その後で農業問題というものになってくるのは・・・。また、農業が一度壊滅的な打撃を受けたら、そんな簡単には回復しないんですよね。今、休耕田、それからとりわけ耕作放棄地の解消に取り組んでいますけれども、実際に農援隊活動として耕作放棄地に行きますと、ものすごくゴミがあったり石があったり大変なんですね。そういう意味ですぐには回復しないから、年に大体1回しか作物はとれません。そういう意味で、きちっと将来の農業のあり方を示した上でTPPの参加について考えるべきではないかというのが私の2番目のポイント。
それから3番目のポイントは、情報があんまり出ていないんですよね。TPPがどこまで進展しているのか、あるいは他の国と日本の対立な部分はあるのかどうか、そういうことはあまり知らないまま参加というのを決めるのは時期尚早じゃないかというので、国民的合意をまず取って欲しいというのが昨日の私の要望でありましたし、それについては、鹿野農水大臣も理解を示されたのではないかなと思っています。
Q>
知事の後に行かれた北海道の高橋知事は断固反対ということで、オール北海道で反対しますとはっきり言われているんですけれども、知事はそこまで言われないのは当初おっしゃった熊本は工業も抱えているということで排除されているというところがあるということなんですか。
蒲島知事>
基本的には貿易立国の日本としては、自由貿易の方向に進まざるを得ないと私は思っています。だからそれと農業問題の両立がどこにできるのかと、そこを明解にしたうえで入るべきじゃないかというのが意見であって、入口からですね、このTPPに反対しているということはありません。
Q>
その意味ならですね、今、政府が議論しているのは、TPPの交渉に参加するかという話なので、入口から否定しないというのであれば、TPPの交渉参加については理解を示されているのかどうかを聞きたいのが1点と、この月内には、政府として知事がおっしゃる農業の将来ビジョンを一応出して、その上でやろうとおっしゃっています野田政権は。だからそういう意味では知事がおっしゃっている一つの条件とクリアするのかなと思うんですが。
蒲島知事>
それがまだ理解される形で出ていないということで、交渉に入るのであれば、その前に示してほしいというのが要望書の内容であります。
Q>
交渉自体についても同じような意見なんですかね。
蒲島知事>
交渉と、それから交渉に参加するかどうか、交渉内容、これも例えば交渉する前にですね、介入する前にある程度の態度を示しておかないと、「はい、今から交渉します」と言って、その議論に参加しても、建設的な議論は出来ないような気がします。
きちっと自分の立場が明らかになった上での交渉参加、だから交渉参加して何かそこでうまく日本を有利に持って行くかという、そういうふうに交渉は簡単じゃないなと私は考えています。
それからやっぱり交渉するためには、やっぱり絶対的な、国全体の支援が必要なんですね。それから信頼感。だからその部分がないまま交渉に参加するというのは、交渉としてはあんまりいい戦術じゃないんじゃないかなと、政治学的にはそう思います。
Q>
同じTPPの関連ですけど、その国民的な合意を得るということを知事は言われていますけれども、この民主党の中でも二分している中で、果たして短期間でAPECまでまとまる見通しがつくのかどうか、知事のお考えと、それから将来の農業のビジョンを示すということを言われていますけれども、近く政府が食と農林漁業の再生実現会議で農水産物の輸出戦略と、それから規模拡大、20ヘクタールから30ヘクタールに規模拡大するという柱を示されると聞いておりますけれども、それが将来のビジョンとして認識できるのかどうか、その2点をお伺いしたいんですけれども。
蒲島知事>
将来のビジョンというのは、机上の理論とまた実態は違うと思いますので、やっぱりウルグアイラウンドの時もありましたけれども、お金をたくさんつぎ込めばいいというわけでもありません。だからそういう意味で、今、日本が置かれている現状、そしてそれは地方によってどう違うか、そしてそれは将来の国民的目標である自給率の向上と食料の安全保障ですよね。それとその今回のTPPにおける交渉の両立性みたいなものがですね、やっぱり明快じゃまだないと思うんです。情報が出されてませんよね。だからそれを今回求めたところであります。
それで最終的に、国論が分かれております。今、民主党の中でも分かれています。私は昔から持論として言っているのは、こういう国難を抱えた政治状況にある時には、なるべく合意争点を解決の目標とすることによって、合意争点というのは全ての国民がそうだと思う合意争点ですね。その合意争点、つまり東日本大震災からの復興と、その復興を日本全体の発展にどう結び付けていくかというのは、国民的合意で、これは誰も反対する人はいないと思うんですね。そういうところにエネルギーを集中すべきであって、分裂争点っていうんですけれども、分裂争点というところにエネルギーを集中すると、本来の合意争点になかなかエネルギーが割けないんじゃないかなと私は思っています。だからそういう形で、野田首相のリーダーシップを今注視しているところであります。