「よって、被告人を死刑に処す」
「これで仏も浮かばれる!」と、傍聴席から叫んだ者があった。
私が宣告されたとしたら、あなただったら、どう?思っただろうか。
袴田「被告」は、ガクッと肩を落としたらしい。
裁判を、裁判官を、信じていたからである。
袴田事件の元裁判官だった熊本典道さんは、単に、死刑宣告の判決文を書いただけではなかった。
「付言」を書いた。
ぜひ、文を読んで下さい。
読む人が読めば、裁判官の間で判断が分かれていると、わかるらしい。
確かに、付言では、捜査のあり方に厳しい批判を向けており、自白や証拠に対する疑念を呈している。ならば有罪への疑念が生じていることになる。
熊本元裁判官は、3人の合議で、2人多数決に従い死刑の判決文を書かざるを得なかった。しかし、2人の裁判官と争ってでも「付言」は譲らなかった。
それは、高裁の裁判官に気づいてもらえると、信じたからであった。
でも、それは実現しなかった。さらに熊本元裁判官の苦悩が深まった。